寒くて、冷たくて、凍えていると そっと温めてくれる。
楽しくて、ワクワクして、幸せなときは 一緒にユラユラしてくれる。
怖くて、苦しくて、震えていると ギュッと強く励ましてくれる。
悲しくて、寂しくて、泣いていると 優しく包み込んでくれる。
不安で、心許なくて、困っていると スリスリと擦って安心させてくれる。
 
 
この手は だれの手?
 
 
誰かがあたしに話しかけてくれる。
日本語だったり、英語だったり、フランス語だったり、知らない言葉だったり。
だけど、同じヒトの声。 低くて甘くて、深くて優しい声。
こんな声を、あたしは聞いたことが無い。知らないヒトの声。
なのに、この声はあの手と同じで、
あたしを包んで、守って、励まして、宥めてくれる。
多分、同じヒトなんだと思う。
 
 
この声の あなたはだぁれ?
 
 
あたしは何にも話さないから、つまらない筈なのに がっかりした様子も無くて
なんだかちょっと、楽しそうだし・・・?
 
夢と夢の隙間を フワリフワリ 行ったり来たりするだけのあたしなのに
どうして伝わるのか不思議なくらい、気持ちをわかってくれてる・・・?
 
 
寄り添うだけで、解ってくれる。 あたしの全部を許してくれる。 
そう思わせてくれる 不思議な声と、手を持ってる、 あなたはだぁれ?
 
あたしに何かさせようとしないヒトを あたしは知らないし。
あたしに頑張れって言わないヒトを あたしは知らないから。
こんな手は知らないし。 こんな声も知らないの。
 
 
一生懸命話しても解ってもらえない。本当に言いたい事は、いつだって伝わらない。
出来ないって言ったら、きっと ガッカリされる。出来ないあたしは、みんなの期待ハズレだから。
 
しっかりしなくちゃ、いい子でいなくちゃ、頑張らなくちゃ、いけないの。
 
頼られて、期待されるって事は、信頼してもらえるって意味で良い事だよね?
優しいね、思いやりがあるね、っていうのは褒め言葉でしょ?
 
我侭言っちゃダメ。頑張らなくちゃダメ。そんな子イラナイって きっと思われちゃうから。
期待されなくなったらオシマイ、なんでしょ? 頼られるうちが華 なんだよね?
 
 
だけど、どうやって頑張ればいいのか わからない。
今までずっと出来ていたのに、もう 何も出来ない。
 
 
 
何ひとつ望まなかった。
 
あたしが 自分から欲しがったものなんて、何も無かった。
かと言って、頑張らないで手に入るものも、何も無かった。
 
何が欲しいのかも解らずに それでも頑張らなければいけなかった。
そんな事考えなかったし  誰も聞いてはくれなかったし。
何のためなのか? 何処に向かうのか? 何故そうするのか?
全然わからないのに ひたすら走り続けるしかなかった。
 
 
 
だから、罰があたったのかもしれない。
 
欲しいものもわからずに、手を伸ばしてしまったから。
それを掴みたいのかも考えずに、掴もうと足掻いてしまったから。
どうしてかも知らずに、頑張ってしまったから。
 
何を望んで、 何がしたくて、 何のためなのか、 
ちゃんと考えなかったから。知ろうとしなかったから。
 
 
きっと もっとあたしがちゃんとしてたら、こんな事にはならなかったんだ。
 
 
それでも もう、動けないの。考えられないの。
何もかも上手くいかない。何もかも忘れてしまいたい。
 
 
だから眠った。もう、起きたくなかった。
 
 
こんなあたし、居なくなってしまえば良い。 
消えて無くなってしまえば、いい。
 
目を開けたくない。見たくない。
 
みんながあたしをガッカリした顔で見るのは見たくない。
お前なんかもうイラナイって 去っていく背中は見たくない。
 
怖い。  苦しい。  悲しい。  辛い。
そして耐えられないくらい きっと、 寂しい。
 
眠っていれば、見なくていい。
幸せな夢だけ、見ていればいい。
 
ここは安全だから。 ここは怖くないから。
 
 
 
ああ、でも何でだろう?
 
悲しい夢ばかり見るの。 苦しくて怖い夢も。
 
 
自分の手の先も見えない暗闇の中で、寒さに震えていると
いつも聴こえて来るあの音。 あの声とそっくりな、バイオリンの音。
 
もう大丈夫。これが聴こえたら もう安心。
もうすぐあなたが来てくれる。あたしを守ってくれる。助けてくれる。
この手と声があれば、あたしはもう大丈夫。怖い夢も見ない。
 
 
「おはよう」       『おはようございます』
「いってきます」    『いってらっしゃい。気をつけてね?』
 
夢の中で、あたしはあなたとお話しをする。
日本語で、英語で、フランス語で。知らない言葉のときはちょっと困るけど。
あなたはそんなの気にしないから、あたしも気にしないで好きな言葉でお話しする。
 
あなたはいつも光の中に居て、だからいつも顔が見えない。
だけど・・・きっと笑ってるんだろうな?とか、なんとなく解る気がする。
あたしの夢の中のあなたは 背が高くて、手足が長くて、フフッ
子供の頃、学校の図書室で 何度も何度も、繰り返し読んで、
ジュディになりきって書き始めた「伯父様への手紙」は
いつの間にか、クッキーの空き箱一杯になってしまったっけ。
 
大好きだった 【 ウェブスターのあしながおじさん 】 みたいなんだもの。
あの頃、本当に本当に、神様にもお星様にも、サンタさんにだって 何度もお願いしてた。
 
「あたしにも、ジャービスが現れますように。」って!!!ハハハ・・///
 
こんなふうに低くて優しくて甘い声、温かくってあたしの手をそっくり包んでしまえる大きな手。
ソレっぽいんだもん・・・あの頃想像していた 【 あたしのあしながおじさん 】 なんだもん。
 
 
うぅ・・・見たいかも。 どんなヒトなのかなぁ?
ウギャッ、ご、後光がまぶしいっす。
(・・・夢の中で顔を見ようとしてみた・・そりゃ無理だよねっ)
 
 
 
起きてしまおうか。いっそ。
 
この手と声があったら、大丈夫なんだから。安心なんだから。
 
子供の頃の夢見がちな妄想のお願いじゃなくって
本当の意味で初めて心から望んでみる。
 
あなたに 会いたい。  会って お礼が言いたい。
 
そのために、目を開けよう。 きっと大丈夫だから。