ジフの家に天女様がいるんだけど、よかったら友達になってやって?と
イジョン先輩とウビン先輩に言われたときは
「は?天女様?」と思った私とカウルだったけど、実際会ってみると
それはそれは麗しいお姫様だった。
 
 
 
私達とジュンピョ、そしてジェギョンオンニは、先輩達から、とんでもなく壮絶で救い難い話を聞いた。
そして、その話の主人公の現在の話しも聞いた。最初の話とは別の意味で衝撃的な話だった。
 
ジェギョンオンニは、怒って、泣いて、驚いて、最後は興味津々!という百面相を披露して
私とカウルは虫が入るぞ!とジュンピョに注意されるまで、あんぐり口を開けてきっちり10分は固まった。
ジュンピョは終始難しい顔をして聞いていたけど、最後の話の時はニヤリと笑って喜んでいた。
 
 
 
その女性(ヒト)は、舞えば天女の様だという。微笑めば女神のようで、涙は真珠のようだという。
立ち居振る舞いは、生粋の王族も真っ青な優雅さと気品で、御伽話のお姫様みたいなのに
英語とフランス語、日本語が話せて、目下ハングルを猛勉強中の才媛なのだという。
 
そして彼女は私と同じ、庶民でとても貧しくて、家族の為に必死に働いていたヒトで
今は、ジュンピョやオンニを足しても全然足元にも及ばない世界一の大富豪の養女で
実の弟さんがその大財閥の後継者になるのだという。
 
その全ては「彼女を守るため」の措置で。彼女を守るためなら全てを賭けるのだと。
彼女1人への警備は世界的VIPレベルのものだけど、それはやり過ぎではないのだと。
彼女の庇護者には今やジフ先輩とそのおじいさんが加わっているので
おじいさんの人脈は、すでに漏れなく庇護者に加わっているだろうと。
ということは、先帝陛下とチェヨン翁がついているということで、政財界+宮がついたということに・・・
 
 
オンニが「桁が違いすぎて、何がなんだかわからないわ・・・」と、溜息混じりに呟いた。
 
 
更に私達を驚かせ、ジュンピョを喜ばせたのはジフ先輩と彼女のこと。
彼女に韓国名を付けたのはジフ先輩で、もう、ビックリする程のベタ惚れ状態なんだそう!
それに関しては百聞は一見にしかずだから、見ればわかる!と細かい説明は省かれた。
 
 
長い説明が終わって、先輩達は改まって、ちょっと厳しい顔を私達に向けて言った。
 
 
「彼女のトラウマの発作を俺達は見た。彼女は勿論だけど、ジフも見てられなくなるんだ。
普通にしてると解らないかも知れないけれど、いつそれが起きても解らない状態だ。
そして、2人はお互い自分の一部みたいに必要とし合ってる。どんな2人を見ても絶対茶化すな。
まぁ、そういう時は茶化せる姿じゃないけどな?けど、彼女がジフを警戒したり、怖がれば
間違いなく2人共壊れる。とんでもなく薄い氷の上にいる状態なんだってことを忘れないでくれ。」
 
「ジフは前に進むと言った。だから彼女に俺達を会わせたいと。でもそれは大きな賭けなんだ。
ウビンも言ったように状況はあまり楽観視出来ないし、今後、厄介事も起きるかもしれない。
引き返すことも出来るよう、最初に皆揃って聞いてもらった。後はお前達で決めてくれ。
ジュンピョはもう多少関わっちまってるんだろう?それでもここまでは知らなかったはずだ。
何処まで深入りするかはお前が判断すれば良い。ただジフの友人として会うだけでも良いし
彼女自身の友人になってくれても良い。俺達の気持ちは後者で固まってるけどな?
すげー女性(ヒト)なんだよ。圧倒されるんだ。全てに。さっきジェギョンが言ったのは
違う意味だったんだろうが、彼女自身が凄いから、彼女を取り巻く全てのものが
凄くならざるを得ないんだ。あの舞を見たら俺の言いたい事が直ぐに解るよ。」
 
 
 
 
 
今、私達の目の前にいる女性(ヒト)は、韓服とはこんなに美しい衣装だったっけ?と思う程
素敵な着方をしていて、音も無く歩く姿は神々しいし、さらりとお辞儀をすれば気高いし、
フワリとジフ先輩に抱き締められて揺れるチマは花びらが舞うようで・・・もう絶句。
 
 
う、美しすぎる・・・なんなんだ?この2人・・・
 
 
ジフ先輩もスリョンさんの前だと普段以上に美しい男って感じで、溜息モノなのよねぇ・・・。
美男美女には大概見慣れてきた私だけど、これは・・・うーーん。桁が違うっていうか・・・
「なんだか・・、子供の頃読んだ御伽話が、飛び出してきて目の前で動いてるって感じ・・」
と呟いたカウルの言葉に首がもげるかと思う程同意してしまった。
 
そう!そんな感じ!ソヒョンオンニとジフ先輩のツーショットも美男美女で綺麗だと思ったけど
それは人間レベル?の話で。こっちはもう、2人揃って夢の世界のヒト?みたいな?
 
しかも纏う空気は物凄く純度の高い幸せオーラ!!!ジフ先輩!溶けてますよ!!!
あのジフ先輩が、能面みたいな先輩が、赤くなったり焦ったり落ち込んだりしてるし!!!
スリョンさんも、蕩けそうな微笑で、信頼しきった眼差しで、先輩だけを見つめちゃったり!!!
 
先輩もスリョンさんも、必ず身体のどこかが接触してるって勢いなのに全然嫌らしくないし・・
はぁ。一幅の絵のような~っていうフレーズは、こういう2人の為にあるんだわ。きっと。
 
 
 
このヒトが本当に気絶するほど、骨にヒビが入るほど殴られたヒトなんだろうか?
こんなに可愛らしく笑うヒトにそんな酷い事する奴がいるんだろうか?
(実際の彼女を目の当たりにすると、あの話って本当にムカつくんですけど!酷すぎるよ!)
 
 
 
そして・・・彼女の物凄く綺麗なお辞儀とともに言われた言葉の数々・・・
なんて、・・なんて、素敵なヒトなんだろう・・・?
強いヒトなんだろう?優しいヒトなんだろう?と思ったら、もう涙が止まらない。
 
『スリョンさん・・・いや!スリョン!!友達になろう!っていうか是非なって!』
 
心の中で叫んでいた私。どうやらカウルも同じだったみたいで、私達はすっかり友達だ。
正直言って・・・。ジュンピョといるよりドキドキする。恋に落ちたみたいに。
あっという間に大好きになり、気付けばファンになっていた。カウルカップルもね?
 
オンニ達も綺麗だし、品があるけど気さくっていうのも一緒なんだけど・・・何かが違うスリョン。
確かに、彼女の魅力は言葉では言い表せないんだと思う。
たったこれだけの時間でこんなに好きになるのだから、これから友達として付き合っていったら
どれだけ好きになっちゃうかわからない・・・ジフ先輩はきっとこんな気持ちなんだわ・・・
 
 
 
「私も韓服をスリョンちゃんみたいに着てみたい!」とカウルが言えば、え?と一瞬驚いて
次の瞬間これが噂の女神の微笑み?ってくらいふんわりと優しく甘く微笑んだのを見て
何故か私とカウルは真っ赤になってしまった///(先輩達は大笑いだった)
 
ジフ先輩は心配そうだったけれど、着替えもあるから女の子だけで。とスリョンが言ってくれて
今はスリョンの部屋で、英語と韓国語を互いに駆使してガールズトークの真っ最中。
 
 
 
スリョンのコーディネートは独創的だけど、伝統も大事にしていて突飛な印象にはならない。
ソッチマをこんな風にすると可愛いのだとか、これにはこんなベサを合わせては?と
普通の洋服を合わせていくように気楽な調子で、とっても素敵で新鮮な着こなしを教えてくれる。
 
 
それにしても、彼女の韓服部屋は凄かった・・・
宮の尚官さんが宮でもなかなかこれほどは・・・というのは決してお世辞じゃないと思う。多分。
質も量も飛びぬけているけれど、色や飾りがまた、見たこと無いようなものが沢山あって・・・
聞けば彼女自身がマルギやオッコルン、トンジョンを付け替えたりするのだという。
最近一緒にヘグムを習っている16歳の女の子がこういうのが大好きで、一緒にリフォームしたり
彼女がデザインしてくれた服もあるのだとか。韓服を16歳でデザイン!?凄すぎる・・・
 
「右手がちょっと不自由だから、あまり上手には縫えないのです」と彼女は笑うけれど、
それが例の事件の後遺症なのだと知っている私達がちょっと顔を曇らせる。
 
すると、そんな事は何でも無い事で、こうして綺麗なモノを作れるのだから満足だと、
不器用になった分だけ丁寧になったし、時間がかかる分だけ出来上がりの妄想が出来るのだと
「だから私、とても幸せです。怪我をしたからこんな経験が出来るのだし、それに・・」
と悪戯っぽく笑いながら「ジャンディさん達が心配してくれます」と言うから、私達は笑ってしまった。
 
フフっとそれを嬉しそうに見つめるスリョンに
「私達、同じ歳で友達なんだからお互い敬語は止めて、名前も呼び捨てで!」と言えば
「言葉が不慣れで上手く出来てないようですが、心ではすっかりお友達言葉です。」とウインク!
 
 
 
屈託が無く、健気で前向き、そして、まるで息を吸うように、自然に人を気遣うスリョン。
先輩達がベタ褒めし、ジフ先輩がベタ惚れするのが、よーーーく解る。うんうん。
 
 
 
そんな話をしてる間も、スリョンは私達の髪の毛を、それは綺麗にセットしてくれる。
彼女のこういうセンスは日本風なのかな?後れ毛の出し方や、編んだり捻ったりが
ちょっと変わっていて、髪飾りも要らない位華やかなのに、くだけていてこなれた感じだ。
 
 
「さぁ、お2人をジフ達に見てもらいましょう!とっても綺麗でビックリしますよ!」
「え?見せるの?」
「勿論です。何故見せないのです?沢山褒めてくれますよ!」
「「え?」」
「褒めてもらうと嬉しいです。嬉しいと頑張ろうと思います。とても良い事です。」
 
 
英語が苦手な私達の為に、スリョンは極力ハングルを使ってくれる。
だから、ちょっとカタコトで、ある意味物凄くストレートだ。
それは何故か妙な説得力があって「そうか、嬉しいと頑張るし、それは良いことなんだな?」と
意地っ張りで照れ屋の私ですら素直にフムフムということを聞いてしまう。
 
 
スリョンを天女だ女神だというけれど、スリョンは魔法使いみたいだ。
女の子を素直に可愛くしてくれる魔法を沢山知っている。
 
 
こうしろああしろと教えてくれるのではなくて、私はこう思います。と言うだけだけど
それがとても居心地が良くて、私とカウルはずっと笑顔だ。
それを彼女が何とも言えない嬉しそうな微笑で答えてくれる。それだけ。
 
だけど、カウルはこの短時間でお化粧したわけじゃないのにすごく可愛くなった。
鏡の中の私もいつもの数倍いい感じだと、何となく思う。
着慣れない高級な服を着て着飾るのは苦手だったのに、今日はただウキウキしている。
 
 
 
スリョンはとても韓服が好きで、好きなものを大事にしていて、
大事なものだから、それを上手に着れたら嬉しいのだと言っていた。
 
そんなスリョンに着せてもらった韓服は私達を包みながら軽やかに嬉しそうに揺れる。
それが楽しくて私達は嬉しくなる。女の子に生まれてよかったと、ワクワクする。
 
 
 
鏡の中の私達はバッチリメイクで着飾ったときより、ずっと素敵になれた気がした。