ウビンの話を聞いていた3人は不思議な既視感を覚える。
 
幼い頃から似たような境遇で共に育った4人の御曹司。
その中で一番大きな力をもつ直情傾向の男が執着したのは
家族の生活の為にバイトに明け暮れる貧しい庶民の少女。
2人を妨害する彼の母親の存在と、反対に守り応援しようとする残りの男達。
彼等は、恋愛感情の有無に関わらず、マスコット的存在として彼女を慈しんでいたという。
 
そしてその風貌。
癖の強い黒髪で眼光の鋭い男と、対照的に色素の薄い品の良さそうな美しい男。
静かな笑みがムードメーカー兼調整役な事を窺わせる長髪の男。
斜に構えているようで、その瞳には1本強い意志のようなものが感じられる男。
その4人ともがかなりの美丈夫で、育ちのよさを窺わせるオーラを持っている。
 
似てると思った。
姿形ではなく、纏う雰囲気やそういったものが。
 
粗暴な男も、切れ者の策士も、裏社会に明るい奴も、伝統と文化の次代の担い手も
ここにいる。同じようにF4と巷で呼ばれる存在として。
 
違いは、歪んだライバル意識の有無と、恋愛感情の在りようくらいか?
ジュンピョとジャンディには確かな愛があったし、
ジフとジュンピョだけでなく4人が其々に良いライバルには成り得るが、
それ以前に、絶対の信頼を置ける仲間だという意識が強い。
 
そう思うと、彼等に奇妙な連帯感のような共感すら芽生えてくる。
自分達が選ばなかった選択をし、進まなかった道を歩む、自分達と似た存在。
何処で道を違えたのか?それとも最初から別の道だったのか?
それすらも分からないけれど・・・。
 
 
思考の淵を彷徨う3人を引き戻すように、ウビンが一枚の写真をテーブルに置く。
「これ・・・」イジョンが思わず声をあげ、ジフは目を見開いて硬直する。
ジュンピョは厳しい表情で穴が開くほど睨みつける。
 
その写真にはバイオリンを弾く花沢と微笑み合う牧野つくしが写っていた。
 
「花沢も、バイオリンの名手だそうだ。彼女に度々弾いてやっていたらしい。」
 
ウビンが写真の補足説明をする。その隣りで、両肘を膝に乗せ、組んだ手の上に顎を乗せるという
得意のポーズのままジフをジッと見ていたジュンピョが口を開く。
 
「ジフ。惑うな。この笑顔はスリョンのとは違う。アイツの笑顔はもっと甘くてキラキラしてやがる。
それはお前がスリョンの分かれた魂の半分だからだ。殿下も言っていただろう?
魂の片割れは無二の存在で、替えは効かないのだと。それ以外の全ては無意味な存在だと。
こいつはスリョンの片割れじゃない。それはお前だ。その理由は簡単だ。
この男が百年かかっても、スリョンにあんな笑顔はさせられねぇからだ。」
 
何かを考えるように写真を眺めていたイジョンが、ジュンピョの言葉に弾かれたように顔を上げる。
 
「ジュンピョは野生の勘でそう言うんだろうが、俺も正しいと思う。
スリョンちゃん言ってたろ?愛が分からず、そして怖かったと。それでもお前の花になりたかったと。
お前のあからさまなアプローチを兄妹の情と勘違いして、諦めようとすらするような鈍感だ。
元々色恋には疎かったんだろう。そしてあの事件だ。恋愛感情自体を封印してしまってもおかしくない。
それでも、彼女はお前を愛し、それを俺達皆の前で告白した。すげー勇気が必要だったと思うよ。
どうしてそこまで出来たか解るか?それだけお前が彼女にとって必要な存在だったんだよ。
なんせ、魂の片割れだ。出逢ってしまえば逃れようも無い運命なんだとさ。
花沢っていう男の方はどうだか知らないが、少なくてもスリョンちゃんには友情以上のものはなかっただろ。」
 
ジフの動揺をあらかじめ予想していたウビンもそれに続く。
 
「俺はその場にいなかったが、あの日のお前達を見ていて思ってたんだ。出逢うべくして出逢った2人だって。
発作を起こしたスリョンちゃんは、俺達どころか自分自身が無くなってしまったようだった。
その彼女が唯一の存在として、頼ったのも縋ったのも、お前だ。ジフ。お前しか居なかったんだ。
あの時の彼女が自覚していたのかどうかはわからない。でも、お前達は確実に惹かれあっていたよ。
そして、互いが居なければ存在できないのだと、全身で言っていた。極限までの切なさに身震いしたぞ!
ジャンディとジュンピョも、カウルちゃんとイジョンも、お似合いのカップルだと思っていたし、思ってる。
だがな、お前達みたいに『この2人は離しちゃいけない、離したらきっとお互いが壊れてしまう』なんて
思ったことは無い。お前達はこいつらが言うように2人だけれど1人なんだ。
互いにとって互いが唯一の存在なんだよ。確かに花沢類という男と、お前には共通点が多い。
だがな、それでもスリョンちゃんにとってはジフだけなんだ。ジフ以外は存在しないのも同じなんだ。」
 
3人が真剣な表情で代わる代わる話すことを、組んだ手に額を乗せ俯きながら聞いていたジフは
徐に顔を上げると、暫し仲間達の顔を見つめた後、1つハッキリと頷いた。
 
 
それをニヤリと片頬を上げて見遣ったジュンピョが
「じゃ、次は俺の番だな?」と、話の主導権を鮮やかに奪った。
 
 
***** ***** *****
 
 
まずは、神話学園の件だが・・と話し始めたジュンピョ。
 
スリョンのみならず、皇太子ご一行様(とジュンピョが言った)も、万全の体勢で受け入れること。
それが神話の総意だと明確に示す、以下の内容にF3は息を呑んだ。
 
 
ヒスの号令で、新たにF4ラウンジを1つの建物として新設することが決定されたのだ。
 
その施設はF4および、モーガン、宮、それに連なるもの以外の進入が不可能で
学園全体のセキュリティシステムの基地局的役割も果たすことになる。
監視カメラ映像や、学生及び教師達のあらゆる情報もここに集約される。
警備体制、導入する最新のシステムは、全てモーガンが取り仕切る事となった。
宮はその存在の立場上、表向きは皇太子個人の警護に留まる形を取り、
必要に応じて、神話とモーガンが宮の意向を反映させていく。
 
内部の施設としては警備に関するものの他に
モーガン、宮の両者の意を汲む医療体勢を整えるための医務室。
其々のSP、宮の従事関係者達の、それぞれの必要に応じた設備を持つ控え室。
スリョンとシンには其々、寝室、シャワー室、公と私を分けられる2つのリビングを備えた専用の部屋。
それ以外の者には共有だが、多目的に使える様に幾つかの中規模、小規模の部屋が用意される。
F4用・トンセンズ用の、2つの応接室と、全員が集まれるF4ラウンジがありミニキッチンも付く。
この3室は特に盗聴に留意された特殊な造りになる。
また、全室の窓は、盗撮防止と防弾を意図とした特殊ガラスが使用される。
建物の中にシェルター的機能をする地下室があるので、不測の事態が起きた場合は避難が可能だ。
この建物の出入りに関しては、指紋と指動脈の2つの認証をダブルで行う。
マンションのように一旦SPのいるエントランスを抜けてから、奥の扉で認証確認をするので
ヒトの目とコンピューターの両方のチェックを要することとなる。
 
また、モーガン氏からの要請で、スリョンは高校3年の1年間は取りあえず
この棟内で、個人授業を受けることが原則的に決まっている。
この措置は、彼女の病状如何で長期化もしくは短期化する予定ではある。
教師は厳しいチェックをされた女性のみで、彼女等はSPの帯同無しに建物への出入りは不可。
(要するに、認証システムに彼女達の情報は入力されない)
カメラや携帯電話、ボイスレコーダーなどの持ち込みも禁止。
 
尚、この講義システムは状況に応じて、シンとチェギョンにも適応される可能性有り。
 
 
「というわけだ。元々モーガンとの話で、この建物は作る予定だったんだが
殿下達も来るっていうんで、少し規模がでかくなったんだ。
因みにこれに掛かる費用の一切を支払うと、モーガンから言われたんだが、
俺達や殿下達も使うわけだろ。だから建物自体はウチが、
システムや人的な事なんかの細かい部分はモーガンが、それぞれ受け持つことになった。
いくらモーガンが世界一の財閥とはいえ、神話にもメンチョがあるしな!」
 
 
 
折角ここまで感動的だったのに・・・成長したと喜んでいたのに・・・
 
(((やっぱりジュンピョはジュンピョだった・・・)))
 
と3人の幼馴染達は自慢げに胸を張る彼等の親友を生暖かく見守るのだ。