『どういうことだ?ソンジョ!』
 
『まだ、わからん・・・解らんのだが・・・。でも、おそらくは・・・・』
 
『・・・・・またしても、ソ家の仕業だと・・・?』
 
『・・・すまん。ソギョン。・・・あの時、お前にあれ程の無念を味遭わせたというのに・・・』
 
『ソンジョ・・・。それは、今のお前も同じ気持ちだろう?しかし、もしそうだとすると
クリスの危惧したとおりになったというわけか・・・。やり切れんな・・・・。』
 
『モーガン氏の言うように、あの時犯人を明らかにしていればこんな事にはならなかったかもしれん。
しかし、そうしてしまえば宮の屋台骨が揺らぐのも必至・・・。そう思って居ったのだが、皮肉よの。
こうなってみると、あの時儂の守ったものは宮ではなく、身中の虫だったのかも知れん・・・・』
 
『・・・・ソンジョ・・・・・』
 
『ソギョンや。お前は儂を冷たい親と思うかも知れんが、息子を喪った親としての悲しみと共に
儂の中には、これでアレを皇帝にせずに済んだ事への安堵もあるのだよ。お前達がいつも言う
“厄介な家”に生を受けた者の宿命かのぉ?只管息子の死を悼んでやる事も出来んのは・・。』
 
『馬鹿なことを言うな!お前が皇太子殿下をちゃんと息子として愛していたのは解っている。
そして、それだけでいられないお前の立場も、俺達はちゃんと解っているぞ。』
 
『ああ・・・・。兎に角、このままスも、そしてお前の息子夫婦も犬死にさせることだけはしない!
チェヨンの方の資料は昨夜のスとの話し合いに使ったので手元にあるが、
お前の持っている証拠もこれから必要になるはずじゃ。すまんが・・・・・』
 
『直ぐにそちらに渡すよ。しかし、ワシはあちらにマークされているだろう?どうすればいい?』
 
『そうじゃな・・・。チェヨンとも考えたのだが、しばらくそちらにシンとチェギョンを預けよう。
お前のところは宮以上に安全だという理由でなら、誰も文句は言えんはずじゃ。
どうせヒョン達も、これから些か忙しくて手が回らんじゃろう。ヘミョンのこともあるでな。
そこにチェヨン達を行かせ、互いの情報をやり取りすることにしよう。』
 
『成る程・・。チェギョンがいればシン家が頻繁に出入りしても自然だな。わかった。そうしよう。
だが、お前。本当にヒョン殿下に・・・・』
 
『元々、スがこうならずともそのつもりだったのだ。あれ以来ずっと様子を見ておったが
スはお前達の言う通りで、何度話して聞かせても解ろうとせんかった。
そしてユルも、どう贔屓目に見ても、たとえあの母と離したとしても、皇帝の器ではない。
しかも、こうなってしまえばあの皇太子妃が、韓国三大悪女と名高いチョン・ナンジョンのように
垂簾政治を行うのは目に見えておるだろう?宮は、下手をすればこの国までもソ家のモノに
なってしまうやもしれんではないか?それだけは決して許してはならんのだ。
いくら、君臨すれど統治せず、と立憲君主を謳っていても、裏で力を行使しようと思えば
どうとでもなってしまうだろう?なんせ、儂の代からのもので歴史が浅いからのぉ。
絶対君主とまではいかずとも、事実上の専制君主位にはしかねんからな。
それではこの国の為にならん。皇室といえど、一家に国の権力が掌握されるなぞ、
ましてやそれが、力を得る為なら何でもするようなソ家だなど、絶対に認められん事。
故に儂は息子を想い、孫を想う祖父としてよりも、この国の皇帝としての責務を果たさねばならん。』
 
『お前・・・・大丈夫か?息子に先立たれるのは自分の腕をもぎ取られるのと同じなのは
ワシも経験上よく知っているぞ。酷く辛すぎて、何ひとつ正常に考える事が出来なかったものだ。
そんな時なのに、お前は哀しむ事も出来ないなんて・・・。』
 
『哀しむのは皇后に任せた。それにこれは、ある意味スの弔いでもあるから、やり遂げる事で
儂なりにあやつの死を悼むつもりでおるんだ。お前の息子達のように罪無き者達への贖罪も・・・』
 
『・・・・・・・・・。無理するなよ?ワシやチェヨンもいるんだ。独りで全部抱えてしまうんじゃないぞ!
それからな、お前昨夜ス殿下と話し合うといっていただろう?そして今日の事故だ。
これが、本当にウチの事件と同じならば、宮の中にソ家の虫がいるのは確実だ。
お前自身も気をつけろよ?いいな!皇太子すら手にかけるなら、皇帝でも厭わない気だろうよ。』
 
『それを言うなら、寧ろシンが心配なのだ。今ヤツらが一番消したいのは、
儂やヒョン以上に、シンだろうからな?だからこそ、今の宮には、シンを置いておけないのだ。
シンは宮の、未来への希望だ。そして、シンを生かすのはチェギョンだけなのだ。
2人をくれぐれも頼んだぞ?ソギョン。』
 
『解っているさ。チョン・ナンジョンの手から、必ず2人を守ってみせるから安心しろ。』
 
『いつも2人の面倒を見ている若い尚官を1人つける。シンにつけていた内官は
暫くこちらの用を任せねばならんから、そちらへは行かせられんかもしれん。
それから・・・・もしもヘミョンがそちらへ行くようなことがあれば、お前自身が目を離さないで欲しい。』
 
『ヘミョン姫か・・・・。おい。ソンジョ。こんな時になんだが、ウチのジフは絶対にやらんぞ!』
 
『クククッ。全く、お前は・・・・。こんな時に儂を笑わせるなんて大したものだぞ。
ヘミョンの事は、そういう意味で言ったのではない。お前も見ていれば解るかもしれんが
色々事情があるのだよ。兎に角使用人ではなく、お前が見てやってくれぬと困るのだ。いいな?』
 
『わかったよ。全て恙無く了解した。ヘミョン姫のことは、よくわからんが言われたとおりにしよう。
あれ以来財団の仕事以外はしていないから、それくらいの時間は作れるだろう。
シン殿下とチェギョン嬢はいつでも受け入れられるようにしておくから、そちらの都合で寄こしてくれ。
それと、この事はなるべく秘密裏にすることだな。だから、ウチにイギサは置くな。
その代わりにクリスから特殊SPを借り受けてやるから、安心しろ。
今は宮の誰を信用していいか解らんから、イギサといえどなるべく宮の者は使いたくない。』
 
『あい、わかった。お前のその慎重さが、こういう時には頼りになるのぉ。
確かに、お前の案の方が安心だな。儂はこれから虫退治で忙しくなるが
コンという信頼できる内官の連絡先を教えておく。それでは、諸々頼んだぞ。』
 
 
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翌日、チェ尚官と共にシンとチェギョンがユン家にやってきて、
2人とジフは出会うこととなる。
 
5歳の2人には、まだ事情が飲み込めない事も多かったが
それでも、大人びていたシンには自分を取り巻く色々な事が変化しつつある事を
敏感に察知しており、何時もに増してチェギョン以外と関わりを持とうとしなかった。
 
そして、8歳になっていたジフは、祖父から多少の事情を聞いており
シンの立場を子供なりに把握していたが、それで態度を変えることなどは無く
常と変わらず、無関心な様子であったので、同じ家に住んでいるとはいえ
殆ど交流らしいものは無いままであった。
 
 
大人達の、粛々と進められる激しい渦の外側にあって、一見穏やかに見えた子供の世界。
 
 
それがある日、1人の来客によって大きく乱されていくこととなったのだ。
そしてそれは、それぞれ別の世界に生きていた2人と1人が、大きく交わる事となり
互いの閉鎖された世界が、ある種の絆で深く結ばれる運命の始まりでもあった。