「いいか、シン。ここからが大事なんだ。
だからってお前は、大人が全部敵だなんて思っちゃだめだ。
僕がチェギョンに言ったのはお前達といつも一緒にいたアジョシとヌナに
この事を話して守ってもらえ。だったんだ。
2人はチェギョンに「もう大丈夫」って言ったと、お前も聞いていただろう?
そうやって、味方の大人とは、ちゃんと仲良くするんだ。
僕も、親を殺されたから・・・・、今でも大人があまり好きじゃない。
変な奴は一杯いるし、嘘ばっかりつくから信用できない。
でも、ちゃんと解ってくれる人もいるんだよ。」
珍しく沢山話すジフの言葉を、シンは真剣な顔で聞く。
「僕達はまだ子供だから、大人に助けてもらわなければ何も出来ない。
それと同時に、自分が大人にとってどういう存在なのか知らないといけない。
僕は財団の会長の孫だってことで、学校とかでも変に大事にされるんだ。
先生にも、クラスメートにも。それが変なことだと思うけど、仕方ないんだ。
お前は皇太孫だし、これから皇太子になって、皇帝になるって思われてるだろ?
それはお前がなりたくてなるものじゃないのは解ってる。
だってお前がなりたいのは 「チェギョンを守る大人」 なんだから。
でも、それも同じ事なんだ。
お前が自分と、チェギョンを守る為には、お前がなんなのか知らなきゃいけないんだ。
きっと、それは嫌な事だと思うよ。僕もそうだったからね。
でも、やるんだ。今はわからなくてもいいから、この事を覚えているんだ。
そして、味方の大人をみつけるんだ。いいね?」
ジフの話はシンにはすごく難しいもので、そんなに一杯はわからなかったけれど
自分がなりたいものと、ならなくちゃいけないものは、ちょっと違うのかもしれなくて
自分には、悪い事をしようとする大人もいるけれど、コン内官達みたいに良い大人もいて
それをちゃんと知っていなくちゃ、チェギョンを守れないんだって思った。
「うん。ヒョン。僕、良い大人と悪い大人がいるって、多分知ってると思う。
ヒョンは、良い大人も悪い大人と同じ大人だからって、嫌いになっちゃだめって言うんだよね?
それと、僕は皇太孫になっちゃったから、悪い大人に意地悪をされるんだよね?
だから良い大人に、僕とチェギョンを守ってもらわないといけないんだよね?」
シンの言った言葉をもう一度頭の中で繰り返してから、うん、と頷いたジフは
漸くその顔を綻ばせて、綺麗なお人形みたいな笑顔になると
「シンはやっぱり賢いな!」と言って、シンの頭をグリグリと、ちょっと乱暴に撫でた。
ジフは照れ臭かったのだ。シン達の事となると、時々自分らしくも無く熱くなる事が。
そんなジフの思いも知らず、シンはちょっと嬉しそうに、そしてちょっとムッとしながら
「ヒョン!痛い!」と叫んで、その手から逃げた。
本当の兄のように慕うジフから褒められた事は嬉しいが
チェギョンの前で軽く扱われたようで、ちょっと恥ずかしい。
幼いながらにも、そんな微妙な男心は健在なのである。
「あ、そうだ。ねぇ、お前達って<イイナズケ>なんだよね?」
イイナズケ?とは何ぞや?という風に、不思議そうな顔をした2人を見て
今度はチョッピリ悪戯に笑んだジフは、それではヒョンニム(お兄様)が教えてやろう
と言わんばかりに胸を反らして講釈を垂れることにした。
「小さい頃に親同士が決めた結婚相手で、自分達がどう思っても結婚する事になる相手同士
っていうのが普通なんだけど、お前達の場合は、自分達もそれでいいんでしょう?
だったら、親も賛成してくれてる、大人になったら結婚する相手同士、ってことかな。」
「「へぇ~~~~~~~」」
「へぇ~ってねぇ。。。まぁ、いっか。
でさ、シンの気持ちは知ってるけど、チェギョンは?チェギョンもシンと結婚したいの?」
「え?私?私はねぇ、シン君のお嫁さんになるのは、生まれる前から決まってるんだよ!」
「「え??」」
「あのね、オンマがね、教えてくれたの。私オンマのお腹の中から全然出てこなくって
オンマはすごく悲しかったんだって。そうしたらね、ミンママが遊びに来て言ったんだって。
ミンママのお腹の中にいたシン君と、オンマのお腹の中にいた私に
『オンマ達はみんなすごーく仲良しだから、あなたたちもすごーく仲良しなると思う。
だから、会いたかったら早く出ておいで』って。そしたら、2人共大急ぎで出てきちゃったのよって。
だから、チェギョンはシン君に会う為に、お嫁さんになる為に生まれてきたんだよって。
それはきっと、生まれる前から決まってたんだよって、そう言われたの!」
「「へぇ~~~~~~~」」
「って、シン。お前は知らなかったの?この話。」
「うん。初めて聞いた。でも、良かったと思った。」
「え?」
「だって、僕はチェギョンのお婿さんになる為に生まれてきて
チェギョンは僕のお嫁さんになる為に生まれてきたんだったら
僕達ずっと一緒にいられるってことでしょう?
それと、イイナズケ?なのだったら、僕たちのことを大人達も応援してくれるのでしょう?
僕、ちょっと怖かったんだ。いつかチェギョンに会えなくなっちゃうんじゃないかって。
でも、生まれる前から決まっていたんだったら大丈夫だよね!」
「そっか。うん。そうだね。きっと大丈夫だね。」
嬉しそうに一生懸命話すシンと、ニコニコ笑ってそんなシンの手をギュッと握るチェギョンが
小さくて可愛い夫婦みたいに思えて、ジフもニッコリ笑いながらそう言った。
「でもね、それなら尚更、気をつけて大事にするんだよ。
お前達がイイナズケで、大人になったら結婚するってことは
僕や、味方の大人以外には、絶対に内緒にするんだ。わかった?」
「「どうして?」」
「どうしても。もしも、悪い大人に知られたら、2人は結婚できなくなっちゃうかもしれない。
そんなの、嫌でしょ?だから、約束だよ。このことは味方じゃない人には内緒にするって。」
「「うん。わかった!」」
ジフも詳しい事を知ってるわけではなかったけれど
普通の大人よりも、ジフを一人前に扱ってくれるソギョンは
割合大人の事情っていうやつも、隠さずジフに教えてくれる人だった。
その理解力がジフにはあると、ソギョンは知っていたのもあるけれど
情報が、時にはその人の命を守る事になる、という事を知っているからだった。
だから、シンとチェギョンが許婚である事、でも皇帝のお后様というのが曲者で
それになりたいバカ女や、自分の娘をお后様にしたいアホ親(とジフは思った)が
シンとチェギョンの邪魔をして、もしかしたらチェギョンに危害を加えるかもしれない事。
そして、そんなバカな奴等からチェギョンを守る為に、皇帝達が2人の事を
秘密にしようとしている事をジフに教え、ジフにも誰にも言ってはいけないと釘を刺したのだ。
ジフはバカではなかったから、元々そんな話を親友達にさえするつもりはなかったが
こうして2人を見ていると、(どんなに大人が内緒にしても、こいつ等が協力しなかったら
絶望的じゃん。その作戦。)と思ってしまったのだ。
この2人は今後学友として同じ学校に通うのだって聞いたけど
これじゃ絶対学校で噂になると思う。
子供だって、ここまで仲良しの2人を見れば何とも思わないわけがない。
きっとこれを見た子供たちは親に言うだろうし、それを聞いた親たちは
チェギョンをどうにかシンから遠ざけようとするに違いないのだ。
大人は子供をバカにしてると、ジフは思う。
だから、こうしてミスをするんだ。と。
子供の世界を舐めてもらっては困るのだ。
大人以上に弱肉強食で、しかも加減も知らなければ、節操もない。
自分が言う事する事に責任を持とうと思う奴なんて、確実にいないのに
それでいて妙に大人顔負け事をの言ったりやったりする。
それで最後は親に泣きつくんだけど・・・・・
と、最近自分の学校のクラスメートに嫌気のさしているジフは苦々しく分析をする。
例えばあんな奴等がこの2人のクラスメートだったとしたら・・・・・
やばい。 絶対に、やばい。
だからジフは、2人にこんな約束をさせた。
その約束は、2人にとって本当の兄以上に兄として
絶大な信頼を置いているジフとのものだったから
その後、2人が就学してからもずっと守られ続けた。
そのお陰か、チェギョンを傷つける事も起きず
チェギョンのほかに選ばれた学友達と共に、平穏な時間が過ぎていった。
けれど、同時に。
その秘密の関係が、シンとチェギョン、2人の完璧なサークルにヒビを入れ
危機を呼ぶことになる日が来るとは・・・・
さすがのジフも、気づけないでいたのだ。