いつの間にか、その体は互いに別の性別を持ち
大きなものと、小さなものに分かたれた私達。
 
 
いつからだったろう?
 
 
広くなった胸に抱かれ、逞しくなってきた腕に守られ
そこにスッポリと埋まってしまう自分になったのは。
 
まるで対のスプーンみたいに、でこぼこがピッタリと重なって
心だけじゃなくって、身体までもが元々は1つだったんじゃないかな?って錯覚する。
 
 
シン君は私で、私はシン君。
 
 
そっと、小さな吐息のように漏らした私の呟きを
この人が聞き逃すはずも無くて。
 
 
チェギョンが僕で。僕はチェギョンだよ。
 
 
そういって、私のおでこに優しいキスをして微笑むシン君が
泣きたいくらい大好きなんだって、気付いてしまって。
 
 
幸せなのに、涙が溢れた。
 
 
 
 
 
 
 
急に泣き出したチェギョンに驚いた僕は
慌ててその体を、もっと自分へ引き寄せて、抱き締める。
 
いつからか、そのパーツの何もかもが僕の何倍も小さくなってしまって
強く抱き締めれば折れてしまいそうなほど儚げなチェギョン。
 
僕達は男であり、女であると、頭でなく感覚が、視覚が訴えてくる。
けれどその違いが現れるほどに、僕等の身体は互いと対を成していく不思議。
 
 
きっと役割が違うのだ。
 
 
僕はチェギョンを守り、その全てを包んでやる為に、大きく逞しくなる。
チェギョンは僕の心を温める為に、甘く柔らかく、そして小さくなる。
 
 
僕はこの女の為だけに存在し、この女は僕の為だけに存在する。
 
 
そう思わずにはいられないって言ったら、お前はまた 「王子病」 だと笑うのだろうか?
でも、本当にそう思うんだよ。そうありたいし、そうであってほしいんだ。
 
 
チェギョンの零す涙は綺麗で、綺麗過ぎて。
僕まで泣きそうになった。
 
 
ああ、これは。
 
幸せの涙だ。ならば止める必要も無い。
 
 
「おやすみ」 と言ってから一瞬考えて、その可愛い唇に挨拶をする。
昨日までは頬かオデコだったけど、今日からはずっとこうしよう。いいよな?
 
 
 
 
 
 
 
夢を見た。
 
 
 
私は小さな赤ちゃんを抱いて、シン君はシン君のミニチュアな男の子を肩車している。
チェ尚官オンニや、コン内官アジョシが、私達の後ろを嬉しそうについて来てくれて
あ!庭師のアジョシも、水刺間のアジュマもいるわ!
 
 
シン君が、宝物を扱うようにソッと男の子を降ろすと、その子は嬉しそうに笑い出す。
漸く歩けるようになったのかな?おぼつかない足取りで何かに向かって歩いていってしまう。
 
 
危なくないの?とシン君を見上げて驚いた。
 
 
私の知ってるシン君より、ずっと背が高くて、ずっと広い肩。
そして何よりも違うのは、その大人びた顔。
 
サラリと流した黒髪は、今より少し短くなっていて洗練された気品があり
鋭角の顎のラインはそのままで、でもなんだろう?いつも以上に男の人なんだと意識してしまう。
知的な印象の目元には自信を湛え、満ち足りて綻ぶ口許は色気が滲んでいて・・・・。
 
 
思わず照れ臭くなって、視線をそらすと
それを許してはくれないあなたの指が、私の顎を持ち上げて
今よりずっと、大人の口付けを贈られた。
 
 
 
「お前達、相変わらずだね?」
 
 
 
聞き覚えのある、でも知らないような気もする、そんな声に顔を向けると
きっと・・・・、この色素の薄い美しい紳士はジフ・オッパ。
 
その手はとても綺麗で、咲き綻ぶ花もこれほどでは無いかもしれないと
そう思う程可憐な女性の肩に回されていて、もう一方にはさっきの男の子を抱いていた。
 
 
 
「ヒョン、ヌナ。」
 
 
 
シン君はそう言って、ヌナと呼んだ女性に嬉しそうに微笑みかけた。
ヌナ?シン君はヘミョン姫様の事をそう呼んだことなんて無かったのに・・・?
 
 
 
それにこの人はヘミョン姫様ではないし・・・。誰?
 
 
 
「シナ♪チェギョナ♪元気にしていた?まぁ!姫様も大きくなって!
益々チェギョンに似てきたわね♪ね?ジフもそう思わない?」
 
「ああ。良かったよね。お姫様が無愛想なシンに似ないで。」
 
「ヒョン、煩いっ!ところで今日は、そっちのお姫様は?」
 
「・・・・・・・。」
 
「ヒョン。何故、不貞腐れているんだ?」
 
「今日はね、ジュンピョさん達F3に取られちゃって、ジフってば機嫌悪いの。」
 
「・・・ヒョン。くれぐれも忘れないでくれよ?あの姫はうちが貰うからな!?
あの人達に取られるような惨事は、皇帝の勅命出してでも絶対認めないぞ!!!
うちの王子様は、ヌナにそっくりなあの姫がいないと生きていけないんだ!!」
 
「嫌だ!なんでお前んちみたいな面倒な家に、俺の大事な姫をやらなきゃいけないんだっ!」
 
「じゃあ、神話や陶芸家のところなら良いのか?まさか!日本ってことは無いだろうな!?」
 
「外国なんて、とんでもない!!姫は何処にもやらないっ!!愛する奥さんのミニチュアだぞ!?
すぅ~~~~~~~~っごい、可愛いんだぞ!!!???」
 
 
 
シン君もオッパも・・・・・なんだか人格が違うわ・・・・・。
と、私が目を見開いて驚いていると、『うちの王子様』 とシン君が呼んだ男の子が泣き出した。
 
 
 
「ほら、ジフとシナが馬鹿なことを言い出すから、泣いちゃったじゃないっ!!!」
 
 
 
綺麗な女の人がそう叫ぶと、どうしたことか2人の俺様は、シューンと萎んで・・・・
ふふ。可笑しいな。オッパもシン君も、このひとのこときっととっても好きなんだわ。
 
優しく私を見て 「チェギョナ・・。貴女も大変ねぇ~。」と微笑むその人を
きっと私も、とってもとっても、好きなんだわ。
 
 
 
「・・・リョ・・・・・。ごめん、許して?」
「ス・・・・・・・・ヌナ!僕は悪くないぞ!?」
「・・・リョン・・・ンニってば~」
 
 
 
 
眩しい光に、不意に包まれて・・・・・・・
 
 
 
 
気付けば、私は “今” のシン君の腕にスッポリと包まれていて
それが夢だった事を、ボンヤリと理解した。
 
 
(ああ、あれは夢だったんだ・・・・・。随分リアルな夢だったなぁ~・・・)
 
 
「ん・・・・んぅ・・・ナ?・・・・ヌ・・・ナ・・・。」
 
 
頭の上から聞こえてきたのは、シン君の声で。
え?ヌナ?と不思議に思って顔を見上げたら、それが解ったかのように瞳がスゥッと開けられた。
 
 
「お・・はよ。ちぇぎょん。」
 
 
寝起きの掠れた声で囁いて、フワリと微笑みながら私の瞼にキスをするシン君は
普段のシン君よりちょっぴり色っぽくて、ドキッと胸が鳴ってしまうのだけど、それは秘密。
 
 
「おはよう。シン君。よく寝てたね?」
 
「ん・・・・、ゆ、め・・・・見てた・・・。」
 
「え?夢?」
 
 
私はさっきとは違う意味で、ドキッと胸が鳴る。まさか・・・・・?
 
 
「僕たちに、王子と姫が出来ていて、ヒョンも多分、結婚してて・・・」
 
「ねぇ、シン君。もしかしてその人のこと、ヌナって呼んでなかった?」
 
「え?チェギョン・・・どうし・・・・」
 
「それで、オッパのところに女の子がいるらしくって、シン君とオッパで取り合って・・・」
 
「ちぇ、チェギョン、まさか・・・?」
 
「うん。同じ夢・・・見たみたい。多分だけど。」
 
 
私達はすっかり目が覚めてしまって、細かなディテールまで話し合ってみる。
本当に不思議なことだけど、私達は2人で1つの夢の中にいたらしい。
 
 
 
でも・・・・。
 
あれが、未来の私達だったら。
 
 
 
「なぁ、チェギョン。あれが、未来の僕たちだったら・・・。」
 
 
 
頭の中の言葉がシン君の声で聞こえてきて、もう一度ドキッと胸が音をたてる。
そんな私をフワリと男の人になった広い胸に抱き寄せて、彼は言った。
 
 
 
「僕たち、物凄く幸せになりそうだ。・・・・・・良かった・・・・・。」  と
 
 
 
私は、返事をする代わりに、もう私の腕では回りきらなくなった背中を
ギュッと抱き締めて コクリ、と頷いた。
 
 
 
 
その瞬間。
私は物凄く幸せな気持ちになって。
 
 
 
 
シン君に気付かれないように 顔をグリグリと押し付けて ちょっとだけ泣いた。