チェギョンが東宮殿に暮らすようになってから、シンには趣味が出来た。
最近のシンは、常に手にカメラをもって何やら嬉しそうにしているのだ。
 
 
 
「また、チェギョンの画像見てるのか?シン、お前さ・・・よく飽きないな?」
 
「イン、おかしな事を言うな。ほら、よく見てみろよ!全部違うチェギョンだろう?」
 
 
 
本気で不思議そうにそう言う皇太子を、学友は内心で溜息をつきながら
生暖かい、微妙な笑みで見つめた。
 
 
 
「なぁ、このチェギョンすっごく可愛くないか?これは大好きなスンデを頬張っていて・・・」
 
 
 
マジか?宮でスンデ?いよいよ宮がチェギョンに侵され始めたな・・・
きっと皇后様たちもそんなチェギョンをにこやかに見守ってらっしゃるんだろうな・・・
皇室って確か、俺達国民の手本だったよな? 宮って、これでいいのかな・・・・
 
 
 
「おい、イン!イン?」
 
「あ、なんだ?チェギョンがスンデを口の端っこから飛び出させてるのならもう見たぞ?」
 
 
 
(ああ・・・宮でスンデ・・・頭痛がしてきた。俺。)等とこの学友が考えているなど
思いもよらない皇太子は、ちょっと困ったような、珍しい表情で、小声で話し始めた。
 
 
 
「は?そうじゃない。お前、PC詳しかったよな?これと・・あとこのチェギョンを
スクリーンセーバーにしたいんだが・・・・・」
 
「・・・・ああ。わかったよ。やり方な?簡単だから後でメールしといてやる。」
 
「そうか。簡単なのか。じゃあ、チェギョンのPCには・・・これと、これなんか良いかもな?」
 
「なぁ、シン。」
 
「ん?何だ?」
 
「お前さ、最近色々駄々漏れだよな?いいのか?それで・・・」
 
「???」
 
 
 
またしてもキョトンとして、目下 “チェギョン専用” となっている一眼レフのデジカメを
その手に大事そうに抱えている友を見て、インは頭を抱えた。
 
 
 
知っていた。こいつが本当にチェギョンが好きで好きで仕方ない 『チェギョン馬鹿』 だってことは。
でも、これほど酷くは無かったはずだ!!!
 
もともとシンはあまり感情を俺たちの前で露にする奴じゃない。(チェギョンに関わらない限り!)
そして、ガンヒョンと並んで知性の塊で冷静な男だ。(チェギョンに関すること以外では!)
 
今まで一度たりとも、シンはチェギョンを好きだということを、俺達にも話したことは無く
それは多分、自分の立場だとか、周囲の噂だとか、何よりチェギョンの安全を思っての事で
だから俺は、俺達は、そんなシンとチェギョンを守ってやろうと密かに思っていたし
知らないふりをしてやってたんだ。シンとチェギョンは幼馴染なんだからって、周囲にも認知させて。
 
 
 
なーーーーのーーーーにーーーーー!!!???
 
 
 
何故だ?何があったんだ?どうして最近、こいつの頭には花が咲いているんだ???
シン、分かってるのか?お前の感情駄々漏れだぞ?ああほら・・・そんな顔して・・・・。
 
 
 
「チェギョンッ!!!」
 
 
 
見える。  インの目には、しっかり見えていた。
 
パァッと輝くような笑顔で、満開の花畑をチェギョンに向かって走っていくシンの姿が。
 
 
 
そして、我等が氷の皇太子様は、トロンと今にも溶け出しそうな満面の笑みで
チェギョンの手をギュッと握り締め、愛しい姫君との再会を喜んでいるようだ。
 
 
 
「シン君!ど、どうしたの?」
 
「いや。大丈夫だったか?」
 
「大丈夫って・・・私、トイレに行ってただけだよ?」
 
「だから心配なんだ。そこまでは流石に付いていけないし・・・。」
 
「シン君・・・。平気よ!ほら、ヒスンやスニョンもいてくれるんだし!ね?」
 
「うん。チェギョン。絶対に1人になるなよ?」
 
「フフッ。シン君、本当に心配性ね~♪」
 
「馬鹿!僕は真面目に言っているんだ!ヒョンにも言われているだろう?2人でいろって!」
 
 
 
ん?どういうことだ?シンのヒョンが、2人でいろと言っただと?
こいつ等の妙な空気は確か・・・・・あ、そうだ。F4の1人が結婚を破談にした辺りからだ。
そういえば・・、こいつ等あの時期にギョンの親父さんの会社の飛行機で済州島に行ったよな?
 
 
 
「げっ!!?? シ、シン!!お前、チェギョン連れて、皇太子部屋へ行けっ!!!」
 
「「 なぜ??? 」」
 
 
 
な、何故と言うか??今にもチェギョンを食っちまいそうな顔してたくせに!!??////
そういえば・・・・こいつ等って結局どうなってんだろ?もともとスキンシップは激しかったしなぁ・・
 
 
 
「あ・・、いや、ほら!シン!お前この前ウチの最新機種のカメラ欲しがってたろ?
タッチパネル式の!あれ、今日持ってきてやったから、チェギョンにモデルになってもらって
試してみて欲しいんだよっ!親父にも、感想が聞きたいって言われてるしっ!なっ!?」
 
「え?いいのか?あれ、まだ発売前だろう?」
 
「いいんだっ!お前が使ってるって噂にでもなれば、良い宣伝にもなるしっ!とにかく、行けっ!!」
 
「ああ、じゃあチェギョン。ちょっと付き合ってくれ。」
 
「うん!いいよ!でも、どうせ撮るならみんなで撮った方が楽しいんじゃない?」
 
「チェギョン!お、俺たちは、昼休みでいいだろ?ガンヒョンとギョンもいないし、なっ??」
 
「ああ!そうだね!ギョン君ってば、ガンヒョンの日直のお手伝い♪してるんだもんね♪」
 
「チェギョン。時間が無い。行くぞ?」
 
 
 
はぁ~~~~・・・
 
 
 
何故だ?何故、俺がこんなに疲れなきゃいけないんだ?
俺達もって言った時のシンの顔・・・・・ゾクッ・・・・・、こ、こえーーしっ!!!
 
あの、氷っぷりも、最近パワーアップしてるんだよなぁ・・・
 
原因は、アレか? 『皇太子妃候補』 の選定問題・・・・か。俺達まだ中坊だっつーのっ!
でも、皇室の婚姻は早いのが通例らしいし、そろそろそんな時期なのか?
 
 
 
シンも辛いよな。
 
あんだけチェギョンだけなのにさ、あいつ。
 
けど、どうするんだろうな?
 
あいつも、チェギョンも。
 
そして、宮も・・・・・。
 
 
 
こういう “ 宮情報 ” はガンヒョンの担当だし、彼女も相当なチェギョン馬鹿だ。
そろそろ周りが騒ぎ出すというなら、俺達も対策を立ててあいつ等を守ってやらなければ。
 
 
この数分で、グッタリと疲労して重く感じる体を、インはグイッと伸びをしてリセットする。
そして、徐にポケットから取り出したスマホを器用に操作して、何かを送信した。
 
 
 
『 例の件、本日より始動! 詳細は昼休み、皇太子部屋にて 』
 
 
 
ファ 「・・・・・・クスッ」
 
ガ 「そうねぇ、そろそろそういう時期だわね!って、ギョン!邪魔!」
 
ギョ 「例の件?ああ、あれか!・・・・白鳥!だからそれ、重いから俺が持つって!!」
 
ヒ 「・・・・。チェヨン様に報告するわ。」
 
ス 「そうね。何処まで話していいかも聞いておいて?」
 
 
 
 
はぁ・・・・。俺って、いい友達だよなぁ・・・・・。
 
 
 
 
インは思う。自分にも、あんなに好きになれる奴がいつか現れるんだろうか?
その子は、俺のBackを見ずに、チェギョンがそうであるように、シンがそうであるように
ただ俺だけを、カン・インという1人の男を、見てくれるのだろうか?
 
 
 
「次男の憂鬱ってヤツ?うわっ。俺って、詩人~~~~♪
さて、浸ってないで、どうするか?まずはあいつ等にゲロッてもらわないとな~~??」
 
 
 
サラリと優しい風が、インの少し長い前髪をそよがせて流れていった。
 
大丈夫。あなたにもきっと・・・。そう言っているかのように・・・・。