結局、四時間目の授業を自主休校してしまった僕とチェギョンは
そのままこの部屋で、イギサが運んでくれた宮の弁当を広げていたりする。
 
僕のせいで、心なしふっくらと腫れてしまった唇を尖らせながらも
餌を頬に溜め込むリスのように、次々とおかずを口に放り込んでゆく
この愛して止まない幼馴染が 可笑しくて、可愛くて
そして、その唇に宿る 独占欲にも似た自分の崩壊の跡が、なんだか気恥ずかしくて
僕はさっきから にやけっぱなしだった。
 
 
「もーう、シン君のせいで、サボっちゃったじゃない!?」
 
「僕だけのせいか?チェギョンだって・・・」
 
「いいですっ!それ以上は言わなくてっ!・・だって、夢中になっちゃうんだもの・・///」
 
「え?」
 
「なんでもないっ!!それより、どうするのよ?正殿に報告が上がったら怒られるよ?きっと。」
 
「大丈夫だろ?僕達、基本的に中等科の勉強は済ませてるんだし。」
 
「それは、そうだけど・・・でも、もし理由を聞かれたら?///」
 
「ふむ。そうだな・・・・。僕たちの仲の良さを確認していました♪」
 
「なんて言えるわけ、ないでしょうが!真面目に考えてよっ!」
 
「チェギョン。おそらく聞かれないよ。」
 
「なんで?」
 
「この部屋のドアの前には、イギサと、お前のSPが立っていたから。」
 
「???」
 
「僕達がこの部屋に入ってから、物音がしない。そして、さっき昼食を受け取ったお前の顔は
それまでの時間、この部屋で何があったかを知らしめるには余りにも分かりやすい顔だった。」
 
「へ?」
 
「お前な、今の今まで、僕と・・・・って顔、していたんだよ。」
 
「は?」
 
「ったく。イギサになんか、見せたくなかったのに。お前僕の言うことなんか聞かないで
『オッパ~ありがとう♪』とか言って、走っていっちゃうし・・。はぁ。あの時のイギサの顔・・・チッ!」
 
「し、シン君、もしかして、それって・・・・!?///」
 
「そうだよ。チェギョンは素直に何でも顔に出るからな。それがお前の良い所でもあるんだけど
これからは、ああいう時の後は、暫く僕以外の人に顔を見せちゃダメだ!いいな!」
 
「う・・・・はぁーい・・。あぅ・・恥ずかしい・・・///」
 
「クスッ。チェギョン。おいで。僕にも食べさせて。」
 
 
 
膨れたり、食べたり、そうして真っ赤になったり。
忙しく表情を変えるチェギョンを、抱き込むようにまた膝に乗せると
僕の好きなものを、ひと口分ずつ運んでくれるスプーンに口を開けた。
 
 
 
***** ***** *****
 
 
 
「で・・・・。お前たちはずっと、授業をサボってそうしてたのか?」
 
 
昼食後、デザートもたらふく食べて満足顔のチェギョンを、バックハグで抱え込み
僕も、チェギョンという名の甘い香りのデザートを堪能していたら
雪崩れ込むように学友たちがやってきて、呆れた顔で開口一番、インがそう言ったのだ。
 
 
チェ 「はぁ。まぁ・・・。」
 
ガ 「皇太子と、その学友が、率先して授業サボってどうすんのよ!?」
 
チェ 「すいません・・・・」
 
シ 「チェギョンは悪くない。こいつは僕に付き合っただけだ。」
 
ガ 「そうでしょうとも!でもね、気をつけないと、そろそろ私達でも制御出来なくなるわよ?」
 
 
同時に目を見開いて、お互いに顔を見合わせる僕たちには、事情がよく飲み込めない。
だから、ガンヒョンにどういうことかを尋ねてみることにした。
 
彼女が渋い顔で説明し始めた話。
 
それは、要するに僕の婚姻問題。いや、皇太子の東宮妃問題、というべきか?
しかし、それを 「制御」 するとは、どういう意味なんだ?
 
 
「シン。お前とチェギョンってさ・・・、単なる幼馴染同士じゃ、ないんだろ?」
 
「「えっ??」」
 
 
インの言葉の含む意味に、直ぐに気づいて驚きを露にすれば
それがどうやらツボだったらしいファンが、ケラケラと笑い出した。
 
 
「ククッ。シン。お前、本当にあれでバレないとでも思ってたわけ?ずっと皆知ってたよ!
シンとチェギョンが特別な関係だってこと。でも、シン達がそれを知られたくないようだったから
気付かないフリしてたんだよ。暗黙の了解で、噂にならないように「幼馴染」を強調したりしてね?
多分、シンとチェギョンが付き合ってるって解ってないのって、ギョンくらいじゃない?(笑)」
 
 
その言葉にみんなの顔を見渡してみると、インとガンヒョンは呆れた笑いを浮かべていて
未だに笑いの発作に苦しんでるファンに、当然事情を知っているのだろうチェギョンのSPでもある
ヒスンとスニョンが静かに頷いてみせる。そして確かに、ギョンだけがポカンと驚いているようだった。
 
 
「ちょ、ちょっと待てよ!?ファン!お前 今、なんて言った?シンとチェギョンが、付き合ってる?
うそだろっ!?確かにシンはチェギョン馬鹿だけどよ~。それは幼馴染だからだろ!?」
 
 
ほらね?と言わんばかりに僕を見て、更に笑いが止まらなくなったファンではなく
ギョンの質問に答えたのは、ガンヒョンだった。
 
 
「ファンの言ったことは、本当よ。ギョン。私は皇太子の学友として選ばれたのではなく
皇太子の “ 許婚 ” の学友に選ばれたのよ。それがチェギョンなの。」
 
 
ギョンは勿論だが、インやファンも。そして僕達すらも 一言一言を、医者の宣告のように
はっきりと言い放った、ガンヒョンの言葉に驚いた。
 
 
「皇子。驚くことじゃないでしょ?私の祖父は上皇様の従兄弟で最長老よ?
あなたとチェギョンのことなんて、こーーーんなに小さい頃から聞いていたわ。」
 
 
そう言ってガンヒョンは掌を床に向けて、グッと下げてニヤリと笑った。
 
何故だろう?この、どう考えても僕の血縁だと分かるような笑みに
ゾクッと背筋が凍り、なんだか物凄く、嫌な予感がするのだが・・・?
 
僕は死刑宣告を受けるような気分になって、ガンヒョンが次に何かを言い出すよりも前に
後ろから抱き締めていたチェギョンの肩に顎を乗せ、ガックリと項垂れてしまった。
 
 
「貴方たちの事はお祖父様から色々聞いているわ。チェギョンがずっと訓育を受けていることも
あなた達が5歳の頃からずっと最近まで、週末は東宮にチェギョンも泊まっていたことや
今は、事情があるとは言え、2人で東宮で同棲生活を満喫してるってこともね?クスッ」
 
 
 
「「「 えええぇ~~~~~~~!!!???? 」」」
 
「し、シン君!どどどど、どうしようっっ!!??」
 
 
 
ああ、やっぱり・・・・・。
 
 
 
赤面してるんじゃないかと若干不安だったが、チェギョンの不安そうな声と
僅かに震えだした小さな体が少しずつ冷たくなっていくような気配は
到底放って置けるものではなくて、顔を上げてそっと耳の付け根にキスをした。
 
 
 
安心して。僕がいるんだから。そう、願いを込めて。
 
 
 
そして、今度こそしっかりと皆のほうへ向かって顔を上げると
先程のガンヒョンに負けないくらいに厳かに、言い放っていた。
 
 
「チェギョン。大丈夫だ。 ただもう、そういう時期なんだろうって事だ。 だろ?ガンヒョン?」