「チェギョン様。もしもチェギョン様が殿下のお傍に上がらなければ
殿下は今よりも もっと危うい立場になられます。」
 
「ユン・ヒスン!それ以上、チェギョンには言うな!」
 
「いいえ。殿下。これはチェギョン様が知っておくべきことです。」
 
「・・・スニョン・・・。いいわ。私、聞くわ。教えて頂戴。私がいなければシン君が危うくなるって?
それは逆ではないの?私なんかが傍にいるよりも、例えばガンヒョンのような立派な王族の娘が
皇太子妃になるほうが良いのではないの?私はシン君の足を引っ張りたくないの。」
 
 
「「「 アンデ (ダメだ/ダメよ)!!!!! 」」」
 
 
「シ、シン君?ガンヒョンも、それにギョン君も、急に大声出してどうしたのよ?」
 
 
「チェギョン!どうして僕が、こんな怖い女を皇太子妃に迎えなければならないんだっ!
その時点で、皇室は絶えるぞ!!??僕はガンヒョンと合房なんか絶対出来ないっ!!!」
 
「なっ!/// こんな無表情のチェギョン馬鹿なんか、こっちだってお断りよっ!!!
合房ですってぇ~~~???あ、ありえない、ありえない!!絶対無理っ!!」
 
「チェギョ~~~ン。お前、何てこと言うんだよぉ~~~???俺の白鳥なんだぞ~~~泣」
 
 
彼らの三者三様の、必死とも言える言い分に、タジタジとなったチェギョンは
救いを求めるように他の仲間に視線を向ける。
 
 
「ブッ。クックックッ・・・・あーはっはっはっ、もうダメ。僕耐えらんないっ!
チェギョン、お前ってやっぱサイコー♪言うにこと欠いて、シンとガンヒョンだなんて・・・っ!!」
 
「俺もそれは限りなく無理があると思うぞ?こいつ等は天敵になれても夫婦になれるわけ無いだろ?」
 
 
ファンとインは、こんなチェギョンを妹のように 可愛く思っている自分達の事を自覚しながらも
シンほどでは無いにせよ、この天然にはこれからも振り回されるだろうと、密かに嘆息した。
 
 
「そ・・・そう、なの?」と、怯えながらシン達を見遣るチェギョンに、3人は大きく頷きながら
「「「 そーーーーなのっ!!! 」」」 と、思いっきり息を合わせて肯定する。
 
「あ、あの、シン君?ガンヒョンにギョン君も、なんだかゴメンナサイ・・・??」
そう言って、肩をすくめながらウルウルと目を潤ませるチェギョン。
 
 
次の瞬間 「「 可愛い♪チェギョン♪ 」」 という、男女混声の叫び声が部屋中に響き渡った。
 
 
「ヤァ!ガンヒョン!」
「なによ、ヘタレ皇子!」
「僕のチェギョンだぞ!」
「チェギョンはモノじゃないわよっ!」
 
 
「「 フンッッッ!!!!! 」」
 
 
(こんなに息が合ってるんだけどなぁ?)と妙に感心しつつも、これ以上怒られては堪らないと
チェギョンは貝になることに決めて、もはや見慣れたとも言える2人の痴話喧嘩を見守った。
 
 
「・・・・・・あの、そろそろ 話を戻しても良いでしょうか?」
 
 
おそるおそる・・という風情で口を挟んだスニョンに、咳払いをして体勢を立て直したシンが
「ああ。チェギョンがまた変な誤解をして、僕から離れるくらいなら、真実を知ったほうがいいのだろう。
スニョン、そしてヒスン。それはチェヨンお爺様の望みでもあるんだろう?」と意味深に尋ねる。
 
 
それに深く頭を垂れながら2人はそれを肯定し、そして付け加えた。
 
「殿下。これから話す話は、殿下には辛い話になるかと思われます。お覚悟を。」
 
 
一瞬驚いて息を呑んだシンだったが、その言葉に否はなく、深く頷いて見せた。
それを見て、ほんの少しだけ表情を緩めた2人のSPが、話し始めたその内容は
宮を渦巻くおどろおどろしさと、人の欲の果ての無い傲慢さに満ちたものであり
シンとチェギョンだけでなく、友人達にとっても酷くショッキングで心が重くなる話だった。
 
 
 
***** ***** *****
 
 
 
「では・・・ヒョンの・・・・・、ユン夫妻の事故は、皇位継承を巡る宮のイザコザから起きた
人為的な事件だと?ヒョンの両親は、ソ家の手の者に殺されたというのかっ!?」
 
「はい。アメリカの企業家でモーガン財閥の会長である、クリストファー・モーガン氏が
既知の間柄であるユン・ソギョン様の不幸を知り、独自に調査されました。
モーガン氏は、韓国の警察組織や宮に任せていては揉み消される可能性があることを
懸念し、そのようにしたと聞き及んでおります。」
 
「確かなのだな?では、何故ソ家の者は刑事訴追されずに済んだのだ?」
 
「ソ・ファヨン、並びにイ・ユル氏が問題を起こさず、静かに宮を去ることを条件に・・・」
 
「人の命を、踏み台にして 宮を守った・・・ということ・・・か・・・・。」
 
「このことを、オッパは・・・」
 
「ご存知でございます。チェギョン様。」
 
「だからか・・・。あの時のヒョンの言葉、気にはなっていたんだ・・・。」
 
 
済州で、ジフらしくなく何処か必死な素振りで、シン達を守る方策を練っていた姿を思い出す。
そしてあの、キム内官との意味深なやりとり・・・・。あれは、この話だったのだ、と思う。
 
知らなかったとはいえ・・・・。
 
グッタリと疲れたようにソファの背もたれにその身を埋めて、誰にも見られぬように顔をそむけ
じっと動かなくなったシンを、心配そうに振り返りながら、そっと頭を撫でるチェギョン。
それを嫌がる様子もなく、ただされるがままになり、徐に自らの片手でその目を覆ったシンは 
静かに肩を震わせ、泣いているようだった。
 
 
「オッパは・・、ユン・ジフという人は、それでも私達をトンセンと呼んで、助けてくれるのね。
宮からも、権力の亡者からも、私達を守ってくれるのね。シン君、私達 良い兄を持ったわね?」
 
 
その言葉に弾かれたように、シンは力強くチェギョンの細腰を引き寄せ、そして抱き締めた。
いや・・・、子供が母親の胸に抱かれて泣くような、縋るような、と言ったほうが正しいかもしれない。
 
 
小さな、子供のような声が、2人の身体の隙間から漏れ聞こえ来る。
「チェギョン・・・・。チェギョン・・・・・。」 と。
苦しげに悲しげに 唯一の存在の名を、祈りのように呟くのは
< 宮 > という目に見えない枷に、身体も心も、そしてその未来さえも雁字搦めに縛られて
 
 
それでも そこで 生きるしかない者の、慟哭のようだった。