「シンか?お前、なに今にも死にそうな声出してるの?クククッ。」
 
「ヒョン!今はヒョンとふざけてる暇は・・・・・」
 
「アナからのSOSで電話した。概要はメールで読んだけど、今PCが近くに無い。
携帯で見るのは面倒だから、お前、かいつまんで説明しろ。」
 
「・・・ハァ。分かった。ミン・ヒョリンが皇太子妃候補筆頭だと言って
様々なパーティに出席しているのは、知ってるか?ヒョン。」
 
「お前、俺を誰だと思ってるの?パーティは嫌いだから殆ど出席しないけど
それでも出なければならないものはいくつかあるんでね。もう何度かその光景、見てるよ 俺。」
 
「ヒョン・・・。その口ぶりじゃ、本っ当に、見てただけだろっ!?否定してくれよっ!!??」
 
「どうして?クラウン、いやこの場合ジェスター(宮廷道化師)か。笑いに水を差すのもどうなんだ?
それに、まだヴェリズモの一幕だ。現実と芝居の見境がつかなくなる二幕の終わりにならなくちゃ
La commedia è finita.(芝居はこれでおしまいです)とは言えないよ。クククッ」
 
「これはオペラの演目じゃないんだぞっ!?」
 
「シン。同じだよ。俺達が手を出さなくとも、あのオペラの終幕と同じで共に殺しあうんだ。
放って置けよ。俺達は演者じゃない。あくまでも観客、だろう?」
 
「・・・・・。今、あの女が皇太子妃に決まったかのような噂がネットで流れてるんだ。
しかもどんどんそれがエスカレートして、このままでは噂の域を越えるのも直ぐだ。
ヒョンが言うように、観客でいたいのは山々だが・・・・・・。」
 
「因みに、報道は規制しといたよ。中央日報の関連企業を使ってね。クククッ。
あいつらのネズミの局長、今頃ワケわかんなくて焦ってるんじゃないの?」
 
「!!こうなること、分かってたのか!?」
 
「多分、そこにいる最長老の孫娘も、じゃないの?あの動きは目的がミエミエだっただろう?
何故 幾つものパーティで、あんな振る舞いをするのか?その答えはひとつだ。
芝居を、現実にしたかったんだよ。シン。お前、俺が済州で言ったこと忘れたのか?」
 
「え?」
 
「 『こんなことで一々ジタバタするな』 そう言ったはずだけど?」
 
「あ・・・・。」
 
「それと、こうも言ったよな? 『シン家の姫にそう簡単には手は出せない。』 」
 
「・・・・・・・・。」
 
「なぁ、シン。あの日、俺が公式ではないにせよ、明らかにしたお前たちの婚姻話は
もう、無かった事には出来ないって、お前、ちゃんと分かってるの?」
 
「え?それは、どういう・・・?」
 
「ハァ・・。お前さ、何を怖がってる?」
 
「・・・・・・・。」
 
「チェヨン翁から聞いたよ。お前、俺の両親のこと、聞いたんだってな?
それで怖くなったのか?チェギョンを自分の傍に置くことも、公にすることも。」
 
「・・・・・・・。」
 
「シン、考えてみろよ?お前は最近知った事実だろうが、チェヨン翁はその事を知った上で
お前にチェギョンを託したんだ。それに、俺はそれを承知であの時、お前たちの関係を明かした。
俺達はとっくにお前の不安を乗り越えた、その先にいるんだよ。そして覆せない決断をした。
宮、シン家、ユン家がチェギョンこそが皇太子妃だ、と認めたんだ。もっと分かりやすく言う?
『嘘をつけない皇族』 の頂点である上皇と並びに陛下達が、チェギョンを皇太子妃に、と望み
その証人がシン家とユン家だ、ってこと。その重みくらい、説明しなくてもお前なら分かるだろ?」
 
「あ・・・・・。」
 
「それから、あの日俺は 『巣穴は叩く』 とも言ったよな?それ、今夜だから。
ハァ・・・。唯一の失敗は、今日あいつらが仕掛けてきたってことなんだよなぁ・・・。
泳がせすぎたかも?余りにも馬鹿っぽい動きだったから油断してたよ。
まぁ、これくらいの処理、お前が何とかできるだろ?こっちも狩りで忙しいから、後は自分でやれ。
分かっていると思うが、今日中に鎮火しろよ?あまり引き伸ばすと規制し切れないからな。
狸たちが言ってたぞ?『これもいい経験だ』 ってな。俺もそう思う。じゃーな。」
 
「あ、ヒョン!」
 
「何?まだ何か疑問ある?俺にしちゃ丁寧に説明したつもりなんだけど?」
 
「そうじゃない。そうじゃなくて・・・・。あ・・・ありがとうっ///」
 
「・・・・・・。クスッ。 ああ。じゃあな?頑張れよ、トンセン。」
 
 
 
 
 
 
ジフと話すシンを、シンの腕の中で心配そうに見守っていたチェギョン。
それを愛しげに見下ろしたシンは、額に1つ口付けを落としてから
頭をクシャリと撫でて微笑んだ。それから・・・・・・
 
どんな時でもシンをホッとさせる その香りに誘われるように
柔らかな温もりに沈み込むように、チェギョンの肩に顔を埋めた。
 
 
 
「シン君?オッパ、なんだって?」
 
 
 
その心の成長と同じように、日に日に広くなっていくシンの背中にそっと手を当てて 
トントンと軽く宥めるように動かしつつ、チェギョンは 囁くように、優しく問いかける。
 
 
 
「・・・・・・・・。」
 
「シン、君?」
 
「チェギョン・・・。ごめん。もう少しだけ、このままで。
お前の香り、落ち着くんだ。だから・・・・・。」
 
 
 
その声は、消え入りそうに小さくて、聞き取るのがやっとなくらいで。
泣いているのかもしれない・・・・・・。 そう思った。
 
 
 
「うん。いいよ。こうしてよ?シン君、歌もつける?」
 
「・・・・・・・それは、遠慮する・・・・。」
 
「どうせ音痴デスヨーだ。でも、知ってた? 私、ハミングは得意なの。」
 
 
 
背中に添えた手で、ポンポンとリズムをつけながら チェギョンはハミングを始めた。
それはやっぱり、ちょっとだけ音を外していて、少し様子の違う子守唄。
けれどもとても優しい旋律で、目を閉じて聞いているうちに 眠ってしまいそうになる心地良さ。
 
でもまだ、眠ってしまうわけにはいかないから、ただその音と背中を伝わる小さな振動に
少しだけ身を預けてみる。 この温もりを守る為に、手放さない為に、必要な力を貯めて。