いつもそうだ。
 
 
 
途方にくれた迷子のような顔をして
 
泣き方を忘れてしまったような顔をして
 
 
 
季節も、時間も 変っていくというのに
 
お前だけが 変れないまま
 
時を止めたように あの日から抜け出せないでいる。
 
 
 
なぁ?お前は今 何処を彷徨っているんだ?
 
 
 
お前の小さな肩を抱いて、黄色に染まった銀杏の小路を歩いた 静かな秋の午後も
 
手足を冷たく凍らせて、頬を濡らすお前の涙を、丸ごと抱えて眠りについた木枯らしの夜も
 
何時間もの間、ただ雪を眺めていたのだと、儚く笑う薄着のお前を、慌てて抱き上げた冬の朝も
 
手折った桜の木が可哀想だと言うお前を、抱き上げてやり、枝に絆創膏を貼らせた春の日も
 
汗ばむお前の髪を一つ括りに結い上げてやり、星を見上げながらその項に口付けた夏の宵も
 
 
 
なぁ? お前は今まで 何処にいたんだろう?
 
 
 
確かに抱き締めているはずのお前が、陽炎のようにすり抜けていった日々を
 
僕はただ、それでも 抱き締め続けていた。
 
 
 
もう、僕は迷わないと誓ったのだから。
 
 
 
お前にも離れるのは諦めろと、僕は言ったよな?
 
お前の涙を拭ってやると、共に傷付いてやると あの日、約束しただろう?
 
 
 
苦しむ夜は抱き締め合って、楽しかった昔語りをしよう。
 
お前の全部を必ず受け止めてやるから
 
だからこの手を離さずにいようと。
 
 
 
お前は、輝く笑顔で僕を見て、言ったじゃないか?
 
 
 
「私達、どうせ離れられないのなら、全部半分こにしょましょう」 って。
 
 
 
分けてくれよ。半分と言わず、全部僕に渡してくれて構わないんだ。
 
そして笑ってくれよ。
 
痛いほど幸せだった、あの潮騒の夕焼けの中の お前のように。
 
 
 
なぁ?チェギョン。
 
 
 
もしも、僕がこの手を離したら、お前はまた笑えるようになるんだろうか?
 
もしも、お前をこの宮という闇から解放してやったら、お前は幸せになれるんだろうか?
 
 
 
たとえ僕が、心を無くしてしまおうとも、胸が潰れて息が出来なくなろうとも
 
季節の移り変わりを、一番に僕に運んでくれて、それを誰よりも楽しんでいたお前が
 
飛び方を忘れてしまった鳥のように、何かを見失って彷徨うのを見続けるくらいなら
 
 
 
いっそ・・・・・・。
 
 
 
なぁ、チェギョン。僕はそうするべきなのだろうか?
 
 
 
抱きしめた華奢な身体からは、お前の軋んだ痛みが溢れてくるよ
 
撫でるお前の髪からは、いつも涙のにおいがするんだ
 
繋いだ手は、傷付いたお前の悲しみに何時だって濡れていて
 
 
 
途方にくれた迷子のような顔をして
 
泣き方を忘れてしまったような顔をして
 
 
 
季節も、時間も 変っていくというのに
 
僕達だけが 変れないまま
 
 
 
時を止めたように あの日から抜け出せないでいる。