「えーー!!それじゃあシン君はスパイって事!?!?」
 
「チェギョンッ!!人聞きの悪い事を言うなっ!!」
 
「だってそうじゃない!信じらんないっ!シン君がそんなことを引き受ける人だったなんてっ!」
 
「だから、違うんだって!聞けよっ!」
 
「嫌よっ!裏切り者のシン君の言葉なんて聞きたくないわっ!」
 
「だーかーらー!!僕は裏切ってないし、スパイでもないっ!」
 
「どこがよっ!バッチリ裏切ってるし、そういうの、スパイ行為っていうのよっ!?」
 
 
 
このまま話していても埒が明かないと判断したシンは、グッとチェギョンの腕を自分の方へ引き寄せて
少し乱暴にその身体を押さえ込むと、黒髪に隠れた細い項を捉えて性急に深まるキスをした。
 
上下の唇を甘く噛んで開かせると、歯列をなぞりその先に隠れている舌を探って絡ませる。
シンの胸を叩いて抵抗するチェギョンの両手を、空いた片手でひと括りにすると高く持ち上げて
んっ・・・と漏れ出る小さな声さえも飲み込むように、激しい熱で押さえ込んで更に接触を深めていく。
 
だらりと力を失って落ちたチェギョンの手を下ろすと同時に、崩れそうになる腰を抱えて
互いの呼吸が整うまでジッとしていたのは、それから数分の後のこと・・・・・・・。
 
 
 
「落ち着いた・・・・よな?」
 
「・・・ズルイわ。こういうやり方・・・・///」
 
「しょうがないだろう?時間があまり無いんだ。」
 
「・・・・ハァ・・・・。解ったわ。話って?今度はちゃんと、解るように説明してよ?」
 
「ああ。でもまたお前が暴れたら、こうして抑えるのも面白いけどな?ククッ」
 
「///シン君っ!?いい加減に・・・・・」
 
 
 
また興奮しそうになったチェギョンの唇に人差し指を当てて黙らせると
その涼やかな知的な瞳に誠実な光を湛えて、真っ直ぐにチェギョンを見据えて
今度はさっきと違って、ゆっくりと、噛んで含めるように、シンが説明しだした。
 
 
 
「冗談だ。チェギョン、落ち着いて考えてみろ。僕が、ヒョンとヌナに不利益なことに加担すると?
そして、相手もそれを望んでいると思うか?・・・常識的に考えて有り得ない。・・・だろう?
それが解ったからこの役目を引き受けたんだ。」
 
「どういう・・・意味?」
 
「だから、このテストは元々ヒョンが合格する事を前提に存在してるってことなんだよ。」
 
「えっ???」
 
「この話を聞いた僕はどうすると思う?ヒョンを合格させようと誘導とか、ヒントとか・・・・
あの手この手でどうにかしようとするに決まってる。・・・・違うか?」
 
「・・・うん。違わないわ。」
 
「それなのに、彼女は僕を指名した。ということは、だ・・・・。」
 
「オンニとオッパの協力を、私達にしろ・・・・ってこと・・・・???」
 
「正解だ。・・・・・チェギョン、お前は僕達がこの部屋を出るときのヒョンの顔を見たか?」
 
「シン君がグイグイ引っ張るから、そんな余裕無かったじゃないっ!」
 
「ククッ。済まなかった。・・・で、僕は見たんだ。ヒョンはヌナを守り抜く決心をしたと思う。
ヌナはああいう人だ。僕達がカミングアウトすればこうなるってことはおそらくヒョンのことだから
とっくに想定していただろう。それでも目の前でその通りになっていくのは辛そうだったがな。」
 
「・・・オッパの気持ち、私にも解るわ。だから神話に進学するのが私も恐かったんだもの。」
 
「ああ・・・。でも、とにかくサイは投げられたんだ。モーガン氏は、こうなる事をヌナをこの邸に
預けると決めたときから予測していたそうだ。多少面白くない気分だが、今はそれよりも・・・」
 
「オンニの、気持ち・・・・・でしょ?」
 
「そう。あの舞のことはチェギョンも解ったんだろう?ヌナの、ヒョンへの暇乞いの舞だ、と・・。」
 
「・・・ええ。」
 
「ヌナは・・・・、ヌナは、やっぱり自分の事を・・・・穢れていて、ヒョンを好きになる資格が無いと
・・・・・・・そう、思っていると思うか?」
 
 
 
コクン・・とシンから視線を逸らして頷いたチェギョンの顔は
初めて2人でこの話をした時と同じように、苦しげに歪み、キュッと噛み締められた唇に
泣き出すまい、と必死に堪えている悔しさが滲み出ていた。
 
 
 
「そうか・・・・。ヌナはやっぱりヒョンの事を諦めて・・・・・??・・・いや??違うかも・・・??」
 
「シン君?」
 
「・・・チェギョン。ヌナはヒョンを・・・・ヒョンを好きでいる事や、幸せになる未来を夢見る事を
諦めてるんじゃないのかもしれない。・・・・・ひっくり返せるかもしれない・・・・・。」
 
「は?なに言っているのよ?何をひっくり返すって言うの??オンニがオッパを・・・・・」
 
「チェギョンっ!!!」
 
「は、はいっ!!!」
 
「ヌナを呼び出せ。今すぐ、1人でここに来てもらうんだ。」
 
「へっ!?」
 
「理由は何でもいい。とにかく、ヒョンについて来られないよう、ヌナ1人で、だ!」
 
「・・・・ハァ・・・・。シン君。それって無茶よ。オッパがオンニから離れると思う?」
 
「・・・・うっ。・・・で、でも、お前達って結構2人っきりで居たじゃないか?
僕とヒョンは何度も2人で見たくも無いテレビの前でボーーーーッと時間潰してたぞ?」
 
「!!!!・・・シン君。このシン・チェギョンに不可能という文字は無かったみたいだわ♪
ホッホッホッ♪では早速・・・・・ポチポチッと・・・・でもって、ポチ・・・で・・・・送信っ!!」
 
「・・・・なんて送ったんだ?」
 
「シン君。オッパの弱点は?」
 
「ヌナ。」
 
「正解!だからどうしても、“ 女同士 ” で話したいことがあるって書いたのよ♪」
 
「は?それだけか?」
 
「何よその馬鹿にしたような目はっ!ちゃんと考えてこうしたのっ!
オッパはオンニにきっとこう言われるわ。『チェギョンと2人で女同士で話したいの。
ジフはここで皆さんと待っていて。』 ってね。」
 
「あ!そうか!そう言われてヒョンが付いて来るなんて事があれば・・・・」
 
「オンニ、きっと機嫌悪くなるかも・・・・?」
 
「そんなことをヒョンがするとは・・・・」
 
「「 思えないっ!! 」」
 
 
 
パチンッ!!とハイタッチをした弟妹は、それから其々がスリョンやジフと話したときの
会話の事や、記憶の刷り合わせをし始めた。
 
元々2人で1人だと豪語するこの2人が、お互いと同じくらい大切な者の為に団結すれば
此れほど強力な力を発揮するのだろうか?というくらいに短時間で話はドンドンと煮詰められて
あっと言う間にシンとチェギョンの、初めての戦略会議は満足のいく形で終了した。
 
 
 
「シン君・・・・上手くいくかしら?」
 
「・・・精一杯やってみよう。」
 
「それでも、オンニの気持ちが変らなかったら?」
 
「・・・・チェギョン。ヌナは僕達に “みんなで幸せになる” って言ったよな?」
 
「ええ。確かにそう言ってくれたわ。」
 
「その言葉を、信じるんだ。あの2人は僕達と同じなんだ。
だから、片方ずつ存在しても絶対に幸せにはなれない。」
 
「・・・・うん!そうよねっ!でもシン君、変わったよねー。前は2人のこと
『放っておけば良い。』・・・とかなんとか言ってたじゃない?」
 
「お前・・・それは僕の真似のつもりか?・・・ったく・・・。
本当は今でも思っているよ。ヒョン達の時間に任せるべきなんじゃないかって・・。
こういうことはあまり周りが首を突っ込むべきことではないってな・・・。」
 
「じゃあ、どうして?」
 
「・・・・・・家族・・・・・ヒョンとヌナは・・・・・家族、だからだ。
ヌナは僕に、賢いから見えないものがあると言った。だから、馬鹿になってみることにした。
すべきかどうかじゃなくて、したいからする。・・・・そうしてみたくなった。」
 
「・・・・シン君・・・・・。そうね。私達が教えてあげましょう!家族としてっ!!」
 
「うん。家族として・・・・!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「チェギョナ?・・・・いるの?私よ?メールを見て、飛んできたわ。大丈夫?」
 
 
そう言いながらアトリエに入ってきたスリョンを、シンとチェギョンはニッコリ笑って出迎えた。
女同士で・・とメールに強調していたにも拘らず、そこにシンが同席していた事に
一瞬いぶかしんだ表情をみせたスリョンだったが、ハハーン・・と納得したように2度3度と頷いて
「あなた達・・・・。何かジフには言えない話があるようね?」・・・・・と、溜息混じりに苦笑した。