はぁぁぁ~~~~~~~~~
 
 
 
 
次の瞬間、軟体動物のようにフニャリと力が抜けて、前へと傾いで離れていった。
 
 
 
 
「(・・・・・。) チェギョン。お前、もしかして深呼吸して・・・る?」
 
「はい♪ リ、ラーーーーーックス、です♪」
 
「は?」
 
「心臓を、ピンクのゾウさんがマイムマイムで、でも私は病気ではないと・・・。
ですから、リ、ラーーーーーックスすれば、大運動会も終了かと♪」
 
「かと♪・・・って、お前・・・・。 いつも以上に意味不明なんだが?」
 
「はい♪私も意味不明です♪此れで病気じゃないなんて、ちょっとビックリです♪
おそらく現在の私の脈拍は、10代女子の平均を70~80回とすると・・・・」
 
「あ!もう、いい!(・・・お前のその、妙に科学的な知識は一体いつインプットされたんだ?)
要するに、脈が速いから、深呼吸で、リラックスを図った。・・・てことか?」
 
「はい♪ピンクのゾウが・・・」
 
「マイムマイム、なんだな?・・・・ブッ!クックックッ!」
 
「し、シン君様???」
 
 
 
笑いながらふざけるような素振りで、自分の胸に強くチェギョンを抱き寄せる。
さっきまでより、もっともっと、強く。華奢な妻を壊す一歩手前まで・・・・。
 
 
 
(ピンクの象・・・。チェギョンは無意識なんだろうが・・・。クククッ)
 
 
 
嬉しくて仕方なかった。
思っていた以上に、妻は自分を異性として見てくれている。
 
 
 
「チェギョン、ピンクの象は、俺の [守り神・その2] だから
リラックスし過ぎて追い出すなよ?(笑)」
 
「え?シン君様の守り神様でしたか?」
 
「そうみたいだな♪」
 
「なんと!それでは、私も敬わねばです!危うく追い出すところでした~。
ん?ところで、その2ということは、1もいらっしゃるのですよね?
シン君様の守り神様と知らずに失礼があってはいけませんので、教えていただけますか?
あ!それは青龍様でしょうか?シン君様の守り神様・その1は青龍様でしたよね?」
 
「いや、青龍は [皇太子] の守り神だな。その1を、知りたいか?」
 
「はい♪是非知りたいです♪」
 
「うーん、どうしようかな?」
 
「シン君様!意地悪はいけません!
神様にご無体なことをして罰が当ったらどうしますか?」
 
「無体・・・ねぇ?」
 
 
 
(誰よりも、こいつに無体な事をしそうなのは、俺だよな・・・。)
 
 
 
「シン君様?」
 
「ん?ああ・・。あのな、その神様な?・・・鏡の中にいるんだ。
だからお前が鏡を見る時に、ニッコリ笑ってやってくれないか?」
 
「??? 鏡の神様ですか ???」
 
「クスッ。まぁな?・・で、やってくれるか?」
 
「はい♪毎日必ず、鏡の神様にニッコリします♪
シン君様を守って下さいってお願いもします♪」
 
「いや、それよりも・・・、守ってもらうよりも・・・、
ずっと一緒にいてくれれば、それでいいんだ。
ずっと、俺の傍に・・・・。そう頼んどいてくれ。」
 
「わかりました♪必ずシン君様の傍に、ずっとずっと・・・
ずぅーーっといてください!!ってお願いします♪頑張ります♪」
 
「ありがとな、チェギョン。
俺よりも、お前がそうしてくれた方が効き目がありそうだ。」
 
 
 
だから、チェギョン。
ずっと俺の傍にいてくれよ、な ――― ?
 
 
 
 
 
 
 
 
『 『 グゥゥ~~~ 』 』 
 
「「・・・あっ!!///」」
 
 
 
 
 
 
 
(全く・・・!! 俺達ときたら、ムードの欠片も無いな!!)
 
 
と思いながらも、腹の虫まで気が合っているような気がして
嬉しく思えるのだから、もう俺は、かなりヤバイ精神状態な気がする。
 
自分のお腹を、ポコリポコリ と叩いているチェギョンの両手に、俺自身の手を添えて止めさせ
一瞬芽生えた悪戯心で、「こら。可愛いお腹を叩くんじゃない。」 と耳元で囁いてみる。
 
 
途端に桃が、紅梅になったのを見て、満ち足りた気分になると
これから説明しなければいけないことも、さっきよりはマシな気分でやれそうに思え
チェギョンの前では、単純でゲンキンな俺になってしまう事が恥ずかしくて嬉しかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「チェギョン、前に話したよな?俺が食事で色々と厄介な目にあってたって・・・。
それな、今も完全に無くなったわけじゃないんだ。」
 
「え?」
 
「これと、これ・・・あと、これだろ?・・それから、ああ、これもだな。」
 
 
 
チェギョンの目の前で、シンは全部の皿を取っては少し眺めて、その内のいくつかを床に置いた。
そして、「卓の上の膳は食べて平気だ。」と言って笑った。
 
シンの言葉に、そしてその慣れた仕草に驚いて固まるチェギョンに
困ったような、優しい微笑を浮かべたシンが、自分の持っていたスプーンの上に
箸で肉団子を1つ乗せると、まず自分がそれを食べて見せた。
 
そうしてゴクリと嚥下し終えたのを、チェギョンに確かめさせるように口を開けて見せ
再度同じものをスプーンに乗せると、今度は「ほら、口を開けろ。」と、チェギョンの口許へ運ぶ。
 
躊躇いがちに開けられた小さな口に、ポンと団子を入れてやると
「どうだ?美味いだろう?」と晴れやかに笑う。
 
 
 
その笑顔が、この優しさが
チェギョンの涙腺を刺激して、ポロンと大粒の涙が零れ落ちた。
 
 
 
モグモグと咀嚼しながら、頬を通過していくその涙を、シンの瞳が捉えて一瞬苦しそうに歪むが
直ぐにニッコリと笑顔に戻ると、「次は?何を食べてみたい?」と言った。
 
蒸し海老を指差したチェギョンに、「あ、これも美味いぞ♪さすが食いしん坊だな♪」と笑いながら
さっきと同じように、箸で取った海老をスプーンに乗せ、自分の口へと運ぶシン。
 
 
 
 
 
ムンズッ!!   
 
  
 
 
 
パクッ!!
 
モグ モグ モグ モグ モグ
 
・・・ゴックン!!
 
 
 
 
 
「はい♪とっても美味しい海老です♪
シン君様も・・・・・・、はい♪あーんしてください♪」
 
「チェギョン・・・。」
 
「はい、あーん♪です♪」
 
 
 
シンの腕を掴んで、自分の方へと引き寄せて、スプーンの上の海老を頬張った。
 
ニコニコしながら黙って噛んで、ゴックンと飲み込むと、今度は手元のスプーンに海老を乗せ
呆然と自分を見つめるシンに向かってニッコリ微笑んで、「あーん」と自分も口を開けながら
シンに 口を開けろ、と仕草と視線のダブルで強請る。
 
ボンヤリと口を開くと、ポンと海老をその口中に放り込まれ、反射のように咀嚼すると
海老の甘みが口の中に広がって、噛むほどにその甘みが脳にまで届くようだった。
 
 
 
「ああ、美味しい。美味しい海老だな。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
これが、シン・チェギョン。
 
 
 
親の借金の為に入宮して、直ぐに母上の氷を溶かした不思議な娘。
初めて会ったその日に、俺の心まで溶かして、誰にも見せた事の無い涙を流させた女。
 
自分の祖父との話をして、過去の幼かった俺まで掬い上げてくれた。
それから、俺の頭を抱きしめて撫でて、もう独りじゃない、自分がいる、と言って
自分自身も気付いていなかった、喉から手が出るほど欲しかった言葉をくれた、俺の守護天使。
 
自分を押し殺して、影に身を潜めるようにして生きてきた俺の代わりに
クラクラになって貧血気味になるほど、全身で力一杯泣いてくれた優しい温もり。
 
たったひと目、その姿をこの目に映すだけで、あれほど強固だった鎧を
いとも簡単に壊させて、本当の俺を、後先も考えずに流出させてしまう美しい宝。
 
 
 
 
 
俺の孤独を、苦しみを、
何も言わずに咀嚼して飲み込んで
共に笑ってくれる・・・・
 
 
“ 愛おしい妻 ”
 
 
 
 
 
「チェギョン。お前に、貰って欲しい物がある。
・・・あとで、此れを食べ終わったら、見てくれないか?」
 
 
 
 
 
もう、迷わない。
 
 
 
 
 
彼女は俺の “天からの授かりもの” 。
 
[天使] なのだから ―――― 。